書を捨てよ、町へ出よう

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【本】平野啓一郎『かたちだけの愛』

 

かたちだけの愛 (中公文庫)

かたちだけの愛 (中公文庫)

 

 2019年読書2冊目。TEDをきっかけに読むことにした。

「分人」としての「私」のあり方が描かれている。

「相良は一つ、気がついたことがあった。彼はこれまで、父でも母でもなく、自分という人間を愛したことがなかった。…(中略)…彼は今、久美といる時の自分が好きだった。他の誰といる時の自分よりも好きで、この自分なら愛せるのかもしれないという気が初めてしていた。」(P.452)

 

かつて江藤淳は『成熟と喪失』で母の崩壊なしに「成熟」はありえないと述べた。当時の舞台はあくまでも「家族」であり「家」だった。

平野の生み出した「分人」の概念は現代だからこそ生まれたのだろう。

現代社会になんとなく疲労感を覚える私にとって、「分人」の概念はやっと上手に呼吸をし新鮮な空気を吸うことができたような、そんな感覚にさせてくれるフレッシュな発想に思えた。